二つの計画と心情風景描写 〜大阪城前にて〜 |
さて、前回の話の続きなんだが。 前回の「マトリックス計画」と「箱根作戦」を実現させるために、俺はしがない知識と経験と思考力を駆使して様様な角度から計画を実行に移すための案を練っているのだが、それがどの方向、どの角度から作戦を立てても、一向に実現できそうな気配がない。とりあえず、敵の本陣を攻めるにはいきなり天守閣を狙わずに堀から埋めていくのがセオリーなのは周知のとおりだが、いくら考えても、その堀が一向に見つからない。俺の脳内では今、見渡す限り広大な城壁が立ちはだかっている。おまけに中もどうなってるのかよくわからない。見えるのは、おおよそ5キロはあろうかという距離に霞がかってそびえる天守閣の姿である。俺に徳川家康のように悪烈な軍事力と政治力があれば、その堀をモノともせずに猛攻撃を仕掛けて天守閣を落とすという手もあるのであろうが、残念ながら脳内の俺も現実の姿を反映して、薄汚れた麻の着衣を身にまとい、所々錆びている刃がついた鍬を肩にかけている農民である。俺はそれをポケーっと口を開けて眺めている。 今にも「さすが元将軍さまのお屋敷だべえ」とか言い出しかねない場面である。
しかし、しかしである。ここで挫けてはいけないのである。「所詮、おいらはしがない農民だべえ。くわばらくわばら」とか言って、山奥の家に帰って野良仕事に精を出したりしては駄目なのである。俺はこれから堀を見つけ出して埋め、城壁をぶち壊し、警護役の侍を片っ端からなぎ倒して本陣に侵入し、壊城用の大型の兵器を有効に活用して天守閣に息を潜める豊臣の息子を殺害しなくてはならないのだ。それが天下統一なのだ。その為にはとりあえず、山奥に年老いた老婆を持つ農民である俺はその汚い鍬を道端に捨て、空腹を癒し、過去と決別せねばならない。
時代は下克上なのだ。 |
|